「北朝鮮がJ-10Bを購入する」をいう噂が中国のネット上で流布したことがあるという。J-10Bは韓国空軍のKF-16にも匹敵する機体なので、そのような事態が起きれば朝鮮半島の戦力バランスに大きく影響するだろう。
しかし自衛隊情報専門官として中国を見てきた著者は「中国が北朝鮮に戦闘機を供与する可能性は否定できない」と語る。
その理由について、中国の対北朝鮮軍用機供与の歴史をもとに解説してもらう。
北朝鮮は作戦機700機を超える空軍大国!?
「中国が北朝鮮に対してJ-10Bを供与する」
これは中国国内の軍事マニアの中で、時々囁かれる噂である。
中国でこのような噂が出る背景には、北朝鮮空軍が保有する機体の旧式化が顕著であることに加え、かつて中国が大量の軍用機を北朝鮮に供与したことを中国の軍事マニアが知っているからでもある。
北朝鮮空軍は、約2,500万人の人口に対して128万人もの兵力を有し、その空軍も戦闘機約480機をはじめ、爆撃機約80機、輸送機約200機と、計700機を超える多数の作戦機を運用する。
旧ソ連から導入したMiG-29やSu-25が目立つものの、数的な主力はMiG-19(J-6)やMiG-21(J-7)などの第2世代機であることが分かる。その多くは中国を由来とするものだ。
これらの航空機が北朝鮮に渡ってきた経緯について述べていく。
中国にとって急務だった北朝鮮軍の再建
1953年7月27日、3年間続いた朝鮮戦争は停戦協定の締結に至った。中国は停戦後も警戒を緩めることはなく、北朝鮮軍部隊のほか、“中国人民志願軍(朝鮮戦争に参加した中国人民解放軍部隊の総称)”部隊も北朝鮮東西両岸に置いて警戒に当たった。
毛沢東は韓国にいる米軍が北に再侵攻し、さらにその手を中国に伸ばすかもしれないという懸念を捨てることはできなかった。米韓軍が北進するとなれば、先の3年に及ぶ戦争で壊滅寸前となっていた北朝鮮軍の再建は急務であった。
停戦後も北朝鮮国内で活動していた中国軍部隊は、1958年末までにすべて撤退することが決定されるが、撤退にあたりその装備品は北朝鮮軍に譲渡されることとなった。中国軍が保有していたT-34/85戦車約200両をはじめ、大量の陸軍装備が北朝鮮軍に引き渡されたほか、中国空軍が北朝鮮内に建設した数ヵ所のレーダーサイトも器材ごと譲渡された。
空軍向けに航空機の供与も決まった。当時、中国においてはMiG-17Fのライセンス版であるJ-5(当時の名称は56式戦闘機)の生産が開始されたばかりであったが、J-5の生産本格化に伴って余剰となったMiG-15/MiG-15Bisを100機以上、加えて新たに生産されたJ-5×10機が早速供与された。
1963年6月には、当時の朝鮮労働党副委員長であった崔庸健が訪中。周恩来総理および陳毅副総理とともに瀋陽の第112航空機工場(現在の瀋陽航空機製造公司)を訪問し、プロトタイプの製作が進められていたJ-6(MiG-19Sの中国ライセンス版。当時の名称は64式戦闘機)の試作機を見学している。周恩来はその場で、J-6の第1バッチ(第一ライン生産分)から北朝鮮に供与することを約束したという。
J-6の量産は1964年に開始され、同年中に46機が生産された。このうち38機は中国軍部隊向けであったが、8機は丹東における引き渡し式典を経て北朝鮮に供与された。これはアルバニアやパキスタンへの供与の1年前、北ベトナム向けJ-6供与より2年も先んじるものであった。中国が如何に北朝鮮を重視していたかが垣間見える。
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