戦闘機と言えばパイロットをイメージするかもしれないが、実際は多くの整備員がいなければ飛ばすことはできない。
本連載では、長くF-15の機付長を務めた著者に、「戦闘機整備員」とは一体どのような仕事をしているかをディープに語ってもらいたいと思う。
まず初回は手始めとして、スクランブルのときに整備員がどう動くかや、設備について話してもらう。
なお、整備の仕事には大まかに「列線」と「ドック」があって、さらに役割は細分化されていくが、そういった部分は追々説明していきたい。
「スクランブル!」
今日は静かな1日だ。朝8時に上番してから何事もなく時間が過ぎていく。夕食の運搬食を食べ終え、情報収集のためという名目でつけっぱなしになっているテレビからは夕方のニュースが流れている。といっても見入っている者もなく、昇任試験の勉強やらコーヒーを飲みながら小説を読んだりして、それぞれが思い思いの時間を過ごしている。
整備員の控え室には窓がないが、廊下の先にあるパイロットの控え室の西向きの窓を通して外の様子が少しだけ見えた。どうやら、そろそろ暗くなり始めているようだ。格納庫外の投光器が点いているかどうかを確認するために外に出て、格納庫外を一回りして戻るとディスパッチ(飛行管理員)の電話が鳴っているのが聞こえた。
次の瞬間、「スクランブル!」の叫び声とベルが大音響で鳴る。ビーチフラッグのスタートのような瞬発力で格納庫ドアのオープンドアボタンを押して、全員が格納庫に出てそれぞれのポジションに向かって走る。
その際にF-15Jの機体の下を通過することは絶対ない。JFS(Jet Fuel Starter:ジェット燃料始動装置)の排気口は胴体下の外部燃料タンクの後端すぐ後ろにあり、斜め後方に廃棄ガスが出る構造になっているので、JFS始動時は接近禁止となっているからだ。
通常は整備員が安全確認後にクリアーサインを出さないと、パイロットは(JFSを)始動しないことになっている。しかしスクランブルでは、合図なしにスタートする。
チーフ(アラートにつく整備員の長)である私はドアから顔を出しているディスパッチに「コックピット・スタンバイじゃなくてダイレクト?」と尋ね、「ダイレクト!」との答えを聞いて、2機の中間位置前方に立って全般監視を行なう。その頃にはすでにJFSが咆哮を上げ、右エンジンが始動を始めていた。
なお、この「コックピット・スタンバイ」とは、とりあえず機体に乗り込んだ状態で待機することを指し、「ダイレクト」は直ちに離陸することを意味する。
筆者が勤務していた百里基地の場合、北から南下してくる識別不明機が領空ラインぎりぎり外を通っているために、レーダーや北部航空方面隊によってすでに正確な位置が分かっていることが多くあった。そういう場合は、どのタイミングで離陸すればよいかが予測できるので、コックピット・スタンバイがかかることがよくあったため、確認を取ったわけだ。
日本の空の守り、スクランブルがどのように維持されているか、貴重な実態を知ることができました。戦闘機を万全に整えることの大変さは想像以上で、恐れ入りました。
コメントありがとうございます。
引き続き面白いと思ってもらえる記事をお届けできればと思います。
お疲れ様です。
私は2→7と勤務していたAPGでした。
2の頃は203、7の頃はdockです。
記事を読み、懐かしさが込み上げております。
これからも、良い記事を宜しくお願い致します。
コメントありがとうございます!