第5回 敵機の未来位置を撃つ方法──高速で動く敵機に当てるための照準器の工夫とは?

いかにFCSは生まれたか

これまで円環照準器から、アルディス式筒形照準器、そして光学式照準器までの発展を紹介してきました。
しかし実戦では、敵機を照準点で捉えても、弾を命中させることは非常に困難でした。なぜなら、弾が狙った位置に到達するまでに、敵機は移動してしまうためです。
今回は敵機の未来位置へ弾を打ち込むために、照準器にどのような工夫が施されていたかを解説していきます。

弾が届くとき、すでに敵機はそこにいない

第1回の記事で、航空機の機銃は、(1)弾道が大幅に落下し始める直前、コクピット正面200~300メートルあたりに集中するように設定してあることと、(2)照準器にはそこまでの距離を知る測距の円環と、照準を取るための照準点があること、を紹介しました。

ただし現実の空中戦ではもう一つ、厄介な要素が出てきます。高速で飛行し、動き回る敵機には普通に狙って撃っても絶対に弾は当たらない、という問題です。

例外は不意打ちに成功して、直線飛行中の敵機を真後ろから撃てる場合のみです。しかし、そんな幸運はめったに起きません。

よって、この問題は不可避なのです。

とりあえず、このあたりの事情を簡単な図で説明しましょう。[図1]

[図1]目の前を直角方向に真っすぐ飛ぶ敵機を射撃する場合のイメージ

最も単純な、敵機が目の前を直角方向に横切る場合を考えます(敵機は▲で、①から②へ飛行する)。

①にいる敵機を、距離200メートルの理想的な位置で捉えて照準し、(現在位置①に向けて)射撃しても絶対に弾は当たりません。なぜなら弾がそこに到達するまでに、敵機は現在位置から前進してしまうからです。

アメリカの主力航空機銃12.7ミリ M2の初速は秒速800メートル前後なので、空気抵抗による減速を考慮しても0.5秒以内には敵機のいる200メートル以上先に到達します。

 

しかし同時に、敵機もよほど“間抜け”でない限り、戦闘中はエンジン全開の時速500キロ以上、すなわち秒速約138メートル以上で飛行していますので(速度が低いと運動エネルギーで劣るので、空戦でまともな機動ができなくなる)、0.5秒後でも70メートル近く先に進んでしまいます。

そのため、弾が狙った位置(①)に到達する頃にはすでにそこには誰も居ない、ということになるわけです。

[図2]アメリカ陸軍航空隊P-51Bマスタングの主翼に収められている、12.7ミリ機関銃の弾薬ベルトを点検している武装整備員。写真は1944年9月頃のイタリアでのもの(Photo:USAAF)

狙うべきは「敵機の未来位置」

では、どうするかというと、[図1]の②のように、敵機が一定時間後に到達するであろう未来位置に向けて撃たなければなりません。このとき生じる現在の目標位置との角度差を「偏差(Deflection)」と呼びます。

よって、単純に敵機を照準に捉えて撃つだけでは、通常、撃墜なんて不可能なのです。

さらに実戦では、戦闘機の目の前を真っすぐ直線で飛んでくれる間抜けな敵はあまりいません。このため敵機との角度が大きく変化する旋回中の射撃には、複雑な円運動の先読みをしなければならないという、やっかいな問題が出てくるのです。

この敵機のどれだけ先に向けて撃てばいいかという、偏差の量の判断は最終的には勘に頼るしかなく、この勘の差が、当時のパイロットにおける空戦技量の大きな部分を占めました。

しかしそうは言っても、完全にパイロットの勘にだけに頼っていたのでは戦争になりませんから、ある程度の対策は考えらえていました。それは例によって円環照準による測距を基本とするやり方で、この点も紹介しておきます。

夕撃旅団・著
『アメリカ空軍史から見た F-22への道』 上下巻

究極の制空戦闘機F-22は、どのように生み出されたのか。その背景を、アメリカ空軍の成り立ちまで遡って考察していく1冊

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(ゆうげきりょだん)
管理人アナーキャが主催するウェブサイト。興味が向いた事柄を可能な限り徹底的に調べ上げて掲載している。
著書に『ドイツ電撃戦に学ぶ OODAループ「超」入門』『アメリカ空軍史から見た F-22への道』上下巻(共にパンダ・パブリッシング)がある。