「中国からの挑戦状」Y-8Q対潜哨戒機─【後編】今後の展望と対台湾配備

近年、台湾周辺の空域が騒がし始めたY-8Q対潜哨戒機の機体について、前編ではその機体、中編では中国の狙いについて紹介した。

今回は補足的な内容になるが、拡張のスピードを緩めない中国がY-8Qの次をどう考えているかを紹介する。

また、これも補足だが、中国がなぜ台湾に近い福建省ではなく、南方の海南島に拠点を置いているかも説明する。

Y-8Qの今後

Y-8Q(またはY-9哨戒機、高新6型)によるバシー海峡への進出はすでに常態化していると言ってよい。台湾が独立指向の民進党政権下にあり、かつ米国の対中姿勢が厳しい現状では、中国軍はY-8Qを中心に台湾方面への進出を継続し、強化するだろう。

2020年11月12日、台湾南西のADIZ(防衛識別圏)に侵入し撮影されたY-8Q(Photo:台湾国防部)[写真をクリックで拡大]

最近は対中プレゼンスの強化を念頭としたと思われる米海軍による台湾海峡通過や、海上自衛隊艦艇による南シナ海進出が実施されている。このところの中国航空戦力の動向は、台湾海峡も含め活発化しており「紳士協定ライン」とも言える中台中間線もその意味を失いつつある。

加えて、Y-8Qの運用実績が良好であれば、北海および東海艦隊の配備機も増強され、東シナ海における飛行が一段と活発になる可能性もある。

近年の海軍部隊や爆撃機部隊を中心とした中国とロシアの共同ぶりから、演習などの機会を捉えて日本海に進出してくることも考えられる。これまで中国海軍の対潜活動をほとんど意識することなく活動してきたであろう日米の潜水艦部隊にとって、Y-8Qの飛行範囲の拡大は一定の脅威となることは間違いない。

また、Y-8Qは対潜哨戒機であり、当然ながら漫然と高度をとって飛行するばかりではなく、監視などのために低空でも活動する。それにより航空自衛隊の地上固定レーダーによる継続的な捕捉が困難になることも予想され、本邦の南西方面における中国軍の航空戦力による圧力が一段と高まる要因ともなり得る。

加えて、中国軍は艦艇と搭載ヘリを含む海賊対処部隊をソマリアに継続して派遣しているが、現地において安定した飛行場の確保が可能となれば、同地でのプレゼンス強化と哨戒機派遣を継続する海上自衛隊への対抗も意識し、Y-8Qの派遣を企図する可能性は否定できない。

見方を変えればY-8Qは、中国軍において最前線の洋上で常続的に活動することを求められた機体であるが、それ故にY-8Qの活動態様は中国の安全保障上の対外姿勢を推し量るバロメーターとなるかもしれない。

早くも後継機?

新鋭のY-8Qであるが、中国の軍事誌上では早くも後継機について囁かれ始めている。中国の軍事雑誌は、その大半が中国の国防企業が発行しているものであり、その情報は無視できないものがある。つまり発行者は最新兵器の開発に携わる側なのである。

(Y-8Qはターボプロップエンジンなので)P-1やP-8などターボファン装備の対潜哨戒機を意識し、国産旅客機C919をベースにした機体を開発すべきだとする意見が認められるようになった。

ボーイング737MAXやエアバスA320neoに対抗するために、中国の中国商用飛機有限責任公司(Comac)が2021年からの運用開始に向けて開発中の旅客機C919。双発ターボファンエンジンを積んだ乗客130〜190名のナローボディ機(Photo:Weimeng)
厚木航空施設にて展示されている日米の対潜哨戒機。右が海上自衛隊のP-1で、左が米海軍のP-8Aポセイドン(Photo:U.S. Navy)

ターボファンとターボプロップの燃料消費率が接近しているならば、速度は速いほうがよい。近年の衛星による海洋監視技術の発達は、洋上捜索の分野においても多くを適用できるようなり、衛星からの広範囲な監視により目標を遠方で発見し、対潜哨戒機を指向する場合、戦機を逃さないために速度は極めて重要なファクターとなる。

Y-8Q対潜哨戒機は、米台のみならず海洋国家日本に住む我々にとって「中国からの挑戦状」でもある。本記事で述べてきた中国海軍の哨戒能力や対潜能力の向上は、自衛隊の運用や戦力建設において無視できないものとなってくるだろう。

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薗田浩毅元自衛隊情報専門官、軍事ライター、ネイリスト
(そのだ・ひろき)
1987年4月、航空自衛隊へ入隊(新隊員。現在の自衛官候補生)。所要の教育訓練の後、美保通信所等で勤務。 3等空曹へ昇任後、陸上自衛隊調査学校(現小平学校)に入校し、中国語を習得。
1997年に幹部候補生となり、幹部任官後は電子飛行測定隊にてYS-11EB型機のクルーや、防衛省情報本部にて情報専門官を務める。その他、空自作戦情報隊、航空支援集団司令部、西部および中部航空方面隊司令部にて勤務。2018年、退官。