「中国からの挑戦状」Y-8Q対潜哨戒機─【中編】中国の狙い

前編では、近年、台湾周辺の空域が騒がし始めた中国初の本格的対潜哨戒機Y-8Qの機体について紹介した。

今回は、元自衛隊情報専門官の著者に、Y-8Qがどこにどのように配備されているのか、そして中国がどのような狙いでこの機体を送り込んできているかを解説してもらう。

主に、戦略ミサイル原子力潜水艦の護衛、米台「対潜ネットワーク」の分断、「中国の海」であることの誇示の3つの狙いがあるようだが、順を追って分析していく。

配備の意義──広大な海域の監視が可能に

Y-8Q(またはY-9哨戒機、高新6型)は中国軍初の本格的な固定翼対潜哨戒機である。固定翼対潜哨戒機の最大のアドバンテージは速度と高度、航続力であり、機動力を活かして遠方の海域に進出し、高速で移動しながら高空から広範囲を捜索することが可能である。

艦艇による対潜哨戒は、航空機によるものと比較して、その範囲は極めて限定される。1隻当たりの対潜哨戒における捜索範囲は数十キロ程度であることに加え、移動速度は最大でも時速30ノット(時速約56キロ)にも満たない。

中国海軍において大量に生産された037級哨戒艇(Haiqing-class、NATOコード:海情型)や、その後継として、これまた大量に建造されている056級コルベット(小型フリゲート)(Jiangdao-class、江島型)でも、中国の長大な海岸線・海域を考慮すると、その範囲は主要港湾や重要な島嶼周辺の哨戒に留まるだろう。

固定翼対潜哨戒機は、高速移動・高度の利点を活かして広大な範囲の海域を監視する。Y-8Qの配備によって中国海軍はその対潜哨戒の範囲を劇的に拡大することが可能となる。

2020年12月12日、台湾南西のADIZ(防衛識別圏)に侵入し、スクランブルしてきた台湾空軍機に撮影されたY-8Q(Photo:台湾国防部)[写真をクリックで拡大]

なお、回転翼航空機(ヘリコプター)は艦艇に搭載可能で、柔軟性などの面で優れているとも言えるが、速度や航続性能は大きく劣る。中国海軍が運用するZ-9対潜型は、フルに対潜器材や魚雷を搭載した場合、戦闘行動半径が約50キロに落ち込むとも言われ、とても実戦に耐えうるものではない。当然、監視可能範囲は固定翼対潜哨戒機には遠く及ばない。

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薗田浩毅元自衛隊情報専門官、軍事ライター、ネイリスト
(そのだ・ひろき)
1987年4月、航空自衛隊へ入隊(新隊員。現在の自衛官候補生)。所要の教育訓練の後、美保通信所等で勤務。 3等空曹へ昇任後、陸上自衛隊調査学校(現小平学校)に入校し、中国語を習得。
1997年に幹部候補生となり、幹部任官後は電子飛行測定隊にてYS-11EB型機のクルーや、防衛省情報本部にて情報専門官を務める。その他、空自作戦情報隊、航空支援集団司令部、西部および中部航空方面隊司令部にて勤務。2018年、退官。