コンピュータの力で、昔と比べて超簡単に!?─④エンジンスタート

一通りの点検を終えたので、今回はエンジンをスタートさせる。

車であればキーをひねればOKだが、戦闘機のジェットエンジンの始動は補助装置が必要なため、それなりに手順を踏む必要がある。

現用機のF-15やF-2を中心に、エンジンスタートの手順や注意事項を解説してもらう。

戦闘機のエンジンスタートにキーは不要!?

自動車のエンジンをかけるときはキーを差し込んで回すか、今ではボタンを押せば、エンジンが簡単に掛かります。でも戦闘機(飛行機)の場合はそうはいきません。

しかし逆を言えば、戦闘機にはキーはないので、手順さえ分っていれば、“いざというとき”誰でもエンジンを掛けることが可能です!

ちなみに小型ビジネス機などにはキーが必要ですので、勝手に乗り込んでもエンジンは掛けられません。さらにこれらの機体はキーを回せばエンジンが掛かるわけではありませんし、他の飛行場へ降りて昼食などに出かけるときには飛行機のドアを閉めてキーをかけるのが通常です。
(車同様、飛行機のエンジンをかけるキーとドアを開け閉めするキーは同じですが)

そしてこれはここだけの秘密ですが、私はキーを失くすのが怖いので、小型機のキーをある点検口に隠して出かけます。ビジネス飛行機も高級品なんだから生体認証システムくらいは欲しいですよね!

1973年6月23日午後9時頃、陸上自衛隊北宇都宮駐屯地で盗まれたLM-1連絡機が突如飛び立つ事件が発生した(自衛隊機乗り逃げ事件)。操縦していたのは操縦訓練は受けていない整備員で、酒に酔っていたとされる。現在も機体と整備員は共に行方不明。写真は米国人が個人所有する同型機(Image:SDASM)



レシプロエンジンのスタート方法──大迫力の音と振動

さて、本題に入りましょう。

まずレシプロエンジン1は、車と同じ原理のエンジンです。エンジンをスタートすると大きな音と大きな振動が発生しますので、瞬時にエンジンが回り始めたことが分かります。

手順的には、燃料コックを開けて、スロットルをアイドルからわずかに出した状態でセルモーター2を動かします。するとエンジンが掛かります。

大昔のレシプロエンジンはセルモーターが搭載されていなかったので、整備員がプロペラを力で回してエンジンをスタートしていました(映画などでよく見る光景ですね)。

第二次世界大戦期のレシプロ戦闘機メッサーシュミットBf109のエンジンスタート。一人(整備員)が手回しクランクでエンジンを回している(YouTube「WingsTV Channel」より)

 

なお、プロペラは固定ピッチ(プロペラの羽根の角度が変わらない機体)では、気にする必要はないのですが、高級な可変ピッチプロペラ3搭載機ではプロペラピッチがフラットである確認も必要です。

あと大事な注意事項としては、プロペラは回転すると人間には見えませんので、前方や後方に人などがいないかを確認することが大切です。歴史を振り返ると、多くの人がプロペラの犠牲になっています。

また、最近では多くのプロペラ機はターボプロップエンジン4になっていますが、これらの機体のエンジンの掛け方はジェットエンジンと同じになります。

脚注

  1. レシプロエンジン……シリンダー内で燃焼を行なってピストンを押し出し、往復運動させてプロペラを回す仕組みのエンジン。Reciprocating Engine
  2. セルモーター……エンジン(内燃機関)を始動させるためのモーター(電動機)。エンジンをかけた際にキュルキュルと音がするのはこれがエンジンを回しているため。Cell-motor。スターター・モーターとも呼ばれる
  3. 可変ピッチプロペラ……羽根の角度を変えることができるスクリュープロペラ。それにより一定の回転数のまま、任意の推進力を得ることができる。Controllable Pitch Propeller(CPP)
  4. ターボプロップエンジン……燃焼によって発生した高圧の排気を噴射してタービンを回し、それによってプロペラを回す仕組み。ガスタービンエンジン(ジェットエンジン)の一種。Turboprop Engine

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。