第8回 これから登場するJ-20Bこそが「真の姿」──J-20の性能検証(3)

ステルス開発を先導してきた米国戦闘機に比べると、J-20には大きなベントラルフィンがあるなど、そのステルス性能には若干疑問が残る部分もある。

しかし著者によれば、そのような問題点もやがて克服されていく可能性が高いという。

今回はJ-20の課題であるベントラルフィンと国産エンジン開発に注目し、今後の見通しについて解説してもらう。

ステルスに弱点あり。しかしそれもやがて克服される……

第7回に述べたとおり、J-20は多角的な技術アプローチにより、機体正面を中心とした部分は十分な対レーダーステルス性能を具備していると思われるが、機体後方のステルス対策にはその構成からくるウィークポイントがあると思われる。

J-20は機体後部下面に大きなベントラルフィンを装備している。

J-20のベントラルフィン。プライマーイエロー(下地塗料)に塗装された試験段階の機体だと、ステルス対策用材料(グレーの部分)がどこに塗られているかがよく分かるが、ベントラルフィンにはとくに多く塗られているのが分かる(Image:Chinese Internet)

そのため機体が大きな迎え角を取った際、垂直尾翼が機体の影となってしまい、ヨー方向(水平面上での左右)の安定が失われることがある。

そこでJ-20の場合、ステルス性を意識して垂直尾翼の背を低くするとともに、ラダーの効率を高めるためオールフライングテール(翼全体が可動する形式)にしたものと思われる。

しかしその垂直尾翼の背の低さがあだとなり、高迎角時には垂直尾翼が機体の影になってしまい、ヨーが不安定になりやすい。J-20の大型のベントラルフィンは、それを防ぐために取り付けられているものと思われる。

ちなみに同種のものはライバルのF-22には認められない。同機は背の高い垂直尾翼を採用し、ピッチ1アップの際のラダーの効果を確保する設計と思われるほか、機体の姿勢を安定させるFBW(フライ・バイ・ワイア)技術が優れているとも考えられる。このためJ-20のようなベントラルフィンは必要なかったのであろう。【※1】

F-22を後方下面から見た写真。J-20のようなベントラルフィンはない(Image:U. S. Air Force)

このフィンは、外側に若干の角度がつけられているものの、側面に大きな面を形成しており、ステルス性において不利であることは想像に難くない。

上のプライマー塗装の写真からは、ベントラルフィンは他の翼と比較するとステルス対策用材料と推定されるグレーの部分が多い。このことは、フィンがステルス性能を低下させる運用側の懸念を反映しているとも考えられる。

しかし、筆者はJ-20のベントラルフィンは「過渡的なもの」と考えている。それは今後J-20が装備する予定の新型エンジンと関わりがある。

【※1】F-22がベントラルフィンを必要としなかった理由の一段落を修正・追加しました[2021年9月25日]

脚注

  1. ピッチ……機首の上下方向。pitch

1件のコメント

開発を急いでいると言いますが中国の場合少し考え方が違うと思います。コスト回収を急いでいます。エンジン開発に莫大な費用を注いでおりそれが戦闘機開発だけでは回収できないでいます。J-31などもこのWS-15を積むと言いますが、市場では契約がとれていません。中国武器市場の取引相手は中進国か後進国のため、高価な戦闘機を購入できないためです。そのため、C919など民間旅客機のエンジン用も開発して、運用実績や整備・運用経験値も含めて稼ぐ内容ではないでしょうか?軍民一体で事業に邁進する中国らしい発想です。

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薗田浩毅元自衛隊情報専門官、軍事ライター、ネイリスト
(そのだ・ひろき)
1987年4月、航空自衛隊へ入隊(新隊員。現在の自衛官候補生)。所要の教育訓練の後、美保通信所等で勤務。 3等空曹へ昇任後、陸上自衛隊調査学校(現小平学校)に入校し、中国語を習得。
1997年に幹部候補生となり、幹部任官後は電子飛行測定隊にてYS-11EB型機のクルーや、防衛省情報本部にて情報専門官を務める。その他、空自作戦情報隊、航空支援集団司令部、西部および中部航空方面隊司令部にて勤務。2018年、退官。