第7回 中国が独自開発するステルス材料──J-20の性能検証(2)

前回は、主に形状からJ-20のステルス性能がどれほどなのかについて紹介した。
今回は、対レーダー対策として重要となるステルス材料について検証していく。
ステルス技術に関してはアメリカがリードする立場で、ロシアをはじめとする諸外国はそれに追随する関係であり、中国も猿真似やスパイ行為を揶揄されていた時代もあった。しかし、ついに独自の技術を開発・発展させる段階に移行しつつあるのかもしれない……。

J-20のステルス性能②──ステルス材料

対レーダー・ステルス対策のためのもう一方の技術は、ステルス材料(塗料1や薄膜など)である。

ステルス戦闘機が直面する脅威は、地上やAWACSなどのレーダーからのメートル波レーダー(対空目標捜索用。ステルス機に対する探知能力にやや優れる)と、空中の敵戦闘機の火器管制レーダーからのミリ波レーダー(精度が高い)のほか、地上と空中からのIRST(赤外線捜索追尾装置)もある。

そのなかでも最大の脅威となるのは、敵戦闘機機のミリ波レーダーであろう。

ステルス機に使用する塗料は、金属粉やカーボンを混入したシリコンカーバイド2からなるものとされており、対応すべき周波数帯ごとに混合する物質の材質や大きさを変更しなければならない。対応する周波数帯の幅が広ければ、その分の塗装を重ねる必要があるため、塗膜も厚くなってしまう。

防衛省技術研究本部(現・防衛装備庁)がステルス研究のために開発した先進技術実証機X-2。F-22やF-35と同様に、機体表面にはシリコンカーバイドでできた繊維が電波吸収材としてしようされている。写真は2019年11月、岐阜基地でお披露目された際のもの(Image:Hunini)

通常の航空機の塗膜は下地のプライマー塗装を含めても0.1〜0.2ミリだが、ステルス塗料の場合は2ミリを超えるとも言われる。当然、相当な重量となり、混合物が多いため定着性(プライマー塗装の上に塗装する際の食いつき)も通常の塗料と比べると弱い。

そのため、飛行中において高温や振動にさらされる戦闘機の場合、剥離してしまうことすらある。最近、SNSでF-22の塗装の痛みが話題になったが、その原因がステルス塗料特有の質や塗装の厚みである。

ステルス塗料が剥げてしまったF-22のキャノピーの前の部分(Twitterより。右上のロゴをクリックでTwitterへ移動)

 

ステルス塗料は、各国とも「秘中の秘」となっており、まして軍において実用化されたものについて具体的なデータは皆無であるが、中国はコソボ紛争の際、1999年3月に撃墜されたF-117の破片を現地人を介して回収したと言われている。これは当然、貴重な技術資料となったことだろう。

1999年3月27日にセルビアのベオグラード近郊の上空で撃墜された米空軍のF-117の残骸。パイロットは撃墜後にベイルアウトし、救助された。その後、残骸はベオグラードの航空博物館に展示され、一部はセルビアと友好国であった中国に提供されたとされる(Twitterより。右上のロゴをクリックでTwitterへ移動)

脚注

  1. 塗料……電波吸収材料(Radar absorbent material:RAM)とほぼ同義。
  2. シリコンカーバイド……炭化ケイ素(SiC)。シリコン(Si)と炭素(C)で構成される化合物半導体材料。次世代パワー・デバイス(パワー半導体)や防弾チョッキにも用いられる。

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薗田浩毅元自衛隊情報専門官、軍事ライター、ネイリスト
(そのだ・ひろき)
1987年4月、航空自衛隊へ入隊(新隊員。現在の自衛官候補生)。所要の教育訓練の後、美保通信所等で勤務。 3等空曹へ昇任後、陸上自衛隊調査学校(現小平学校)に入校し、中国語を習得。
1997年に幹部候補生となり、幹部任官後は電子飛行測定隊にてYS-11EB型機のクルーや、防衛省情報本部にて情報専門官を務める。その他、空自作戦情報隊、航空支援集団司令部、西部および中部航空方面隊司令部にて勤務。2018年、退官。