その後、M1は改良に改良を重ねることでの主力戦車として一級品となるが、その弊害としてどういう問題点を抱えることになったか、そして問題の大元が何にあるかを考えていく。
度重なる改修によって一線級に
初期型のM1は、M60と同じ105ミリライフル砲を搭載していた上に、複合装甲は装備されておらず、とても第三世代戦車とは呼べないものだった1。開発にあまりにも時間がかかり、新型戦車を求める現場からの圧力に耐えきれなくなったため、その時点で技術的に可能な範囲で「取りあえず組み立てた」というのが実態に近いのではないだろうか。
そのため、早くも1985年には、120ミリ砲とセラミック装甲を装備した改良型のM1A1が登場した。レオパルド2と同様に、ラインメタル社が開発した120ミリ滑腔砲を搭載したことで、攻撃力は一躍トップクラスとなった。
しかし、セラミック装甲については、対HEAT弾(成形炸薬弾)を念頭に開発されたものであったため、APFSDS弾(装弾筒付き翼安定徹甲弾)に対する防御力は十分ではなかった。言い換えれば、APFSDS弾を発射できる敵戦車との戦闘には不安が残る状態ということだ。
そのため、1991年の湾岸戦争では、現地で正面装甲に劣化ウランを組み込んでM1A1(HA)とする改修が急遽行なわれた。
湾岸戦争でM1A1(HA)がイラク軍戦車を圧倒し、一躍勇名を轟かせたことは読者のご存じのとおりである。その後、防御力を若干改良したM1A2、情報処理能力を強化したM1A2SEPへと続き、今日でも米軍の装甲戦力の中心となっている。
改修の代償として「16%も増えた重量」
以上のとおりアップグレードを重ねて、M1戦車は一級の実力を獲得・維持してきた。その一方で、あれこれと追加したことで重量はどんどん増加した。初期型の54.4tに対し、M1A1は57.1t、M1A1(HA)は61.5t、そしてM1A2 SEPは63.2tとなっている。初期型と比べると、現在のM1戦車2は約9tも増加しており、比率だと約16%増となる。
ガスタービンエンジンにより1500馬力ものパワーを有しているため、現M1の重量出力比がそれほど悪化したわけではない。しかし、重量が重いということ自体が、戦場では重大なハンデとなる。
軟弱地にはまり込みやすいのは勿論のこと、道路事情がよくないところでは、路面を陥没させたり、路肩を崩壊させたりするおそれがある。戦場で最も頻繁に出くわす地形障害は川であるが、通行可能な橋梁も限られてしまう。これでは戦車の機動性を十分に発揮することはできない。
さらに、戦車は集団で運用されるが、現M1部隊が道路に与えるダメージによって後続部隊の交通に深刻な影響が出ることも懸念される。
戦場まで輸送するのも大変だ。米軍最大のC-5輸送機の貨物搭載力は122tなので、M1A1までなら2両積むことができたが、現M1だと1両だけとなる。C-17輸送機は同77tなので、現M1戦車を1両積んだら、それ以外の物を運ぶ余地はほとんどない。
海上では、LCAC-1揚陸艇の標準搭載力が54tなので、現M1は完全にオーバーしている。米国海兵隊がいまだに旧型のM1A1を使用しているのは、そうせざるを得ないからだろう。要するに、現M1は重くなりすぎて、緊急展開には不向きになってしまったのだ。
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