第7回 戦闘機に向かう道も決まっている!?──①戦闘機に向かうまで

戦闘機パイロットといえば、飛行中に何をしているかに関心が集まりがちだ。
しかし、プリブリーフィングが終わって離陸するまでの過程についても、安全で効率的な運用のために、手順やルールが事細かに決められている。
「戦闘機パイロットの世界」を奥深く知ってもらうために、数回にわたって準備過程ついて紹介してもらう。

パイロットの基本はツナギの飛行服

プリブリーフィングが終われば戦闘機に向かいますが、その前に飛行用装備品を身に着けます。

まずは飛行服(フライトスーツ)ですが、通常、パイロットは朝からツナギの飛行服を着ています。とても着心地良く、どう動いてもずれませんし、パイロットにはとても便利な服装だと思います。

トイレのとき全部脱がないと用を足せないのはちょっと不便ですが(笑)、できれば出勤退社も飛行服にしたいぐらいです(飛行服での通勤は安全上禁止されている)。ちなみに夏用と冬用の2種類があります。

私が現役の航空自衛隊パイロットだった頃は、飛行服は救難機の捜索でできるだけ発見されやすいように目立つオレンジ色でしたが、その後、作戦重視となり、敵性国に発見されないように深緑の国防色に変わりました。冬場でなければ飛行服にGスーツを装着してハーネスを背負えば、服装は完了です。

かなり目立つオレンジ色だった航空自衛隊の飛行服。写真は1993年のカンボジアPKOの際のもの(Image:航空自衛隊小牧基地ホームページ)



冬場は耐寒・耐水服も着る

問題は冬場です。冬場にベールアウト(射出)した場合、下はたぶん冷たい海。飛行服だけだと30分ぐらいが限界でしょう(低体温症になってしまうため)。

そこで冬場は厚めの下着を着て、その上に耐寒服と耐水服を装備します。これらはすべてパイロットの体型に合わせて貸与されます。

航空自衛隊の耐寒耐水服(Image:藤倉航装ホームページ)
参考までに、左が海上自衛隊の耐寒耐水服(Exposure suit)で、右が通常の飛行服(Image:航空自衛隊第23航空隊ホームページ)

特に耐水服は、首や足首、手首の太さに合わせて作られますので(ゴムをカットをする)、他のパイロットが使用することはできません。

もっとも、これらは自己管理ではなく、救命装備係が管理・保管していますので、救命装備室に行けば自動的に準備されています。なお耐水服はぴったりにできているツナギなので、一人では着ることができません。そのため、どうしても救命装備担当者に手伝ってもらう必要があります(まあ、私の体が昔から硬かったせいもありますが……)。

ちなみに海上自衛隊さんのパイロットの耐水服はもっと真剣で、足まで覆われる耐水服です。耐水服に長靴が最初から一体化されているイメージです。冷たい海水に浮かんでいる状況では足先から冷えるので、かなりの効果があると思います。

足まで覆われており、形で水が入らない構造になっていている海上自衛隊の耐水服(Image:海上自衛隊八戸航空基地ホームページ)

でも一番の問題点は、ハンガーにつるされているのを見ると、赤い着ぐるみの抜け殻が干してあるようで、なぜか笑えることでしょうか。

当然、耐水服や耐寒服を着た場合は、体は自由には動きません。後方などはかなり無理をしないと見ることができないので、空中戦などする場合はかなり体力が必要となります。

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。