第4回 飛行機を飛ばすだけではない!? 「戦闘機のテストパイロット」の仕事とは?

今回は操縦の話は一休みして、少し毛色の違う話をお届けしたいと思います。
皆さん、「戦闘機のテストパイロット」と聞くと、どのような仕事内容をイメージされるでしょうか。
航空自衛隊で約10年、某M重工業で20年ほどテストパイロットを務められてきた渡邊氏に、戦闘機のテストパイロットの仕事にはどのようなものがあるかを解説してもらいました。
その内容は、単に開発中の戦闘機に乗るだけでなく、多岐に渡るようです。

3種類ある飛行試験

今回はテストパイロットについてお話ししましょう。

航空自衛隊では、試験飛行を専門とする飛行隊は岐阜県各務ヶ原(かかみがはら)市にある飛行開発実験団のみとなります。常時30名ほどのパイロットが所属しています。
飛行試験には3種類に区分されています。

X-1:いわゆる試験飛行(新型機や新装備品の技術実用試験飛行など)
X-2:支援飛行(X-1の航空機の飛行試験における支援や監視、撮影など)
X-3:整備飛行試験(飛行機の修理・部品交換後の確認飛行)

この3つの区分の飛行にはそれぞれの資格が必要です。X-1をやる場合は、基本的にTPC(Test Pilot Course:試験飛行操縦士課程)を卒業する必要があります。
この学校は航空自衛隊岐阜基地にあり、年間5名前後の卒業生が生まれています。TPCは各部隊で選ばれたパイロットが入学し、約1年間、岐阜基地で学びます。

TPCの看板(Photo:飛行開発実験団ホームページ)

ほぼすべての航空機を飛ばすことに

教育内容は学科および実飛行、そして結果発表という流れになります。
学科は航空工学的な理論と飛行試験理論、そしてこの知識をもとに実際の飛行機を使用してデーター取り、その後にデーター整理分析・発表となります。

飛ばす飛行機は、自分の専門の機種とは限りません。「来週からC-1ね」と軽く言われて、飛行手順書を渡されます。
私の専門はF-4だったので戦闘機全般を飛ばすことには特にそれほど苦労はしなかったのですが、同期の生徒の一人はヘリのV-107のパイロットだったので、急にF-15に乗って試験しろと言われても、並大抵の努力では飛ぶことはできなかったと思います。私も急に「来週からUH-1ね」と言われたときには、かなり焦りました(笑)。

ボーイング・バートル社が1950年代に開発したタンデムローター式ヘリコプターV-107シーナイト。日本では川崎重工業によってライセンス生産され、陸海空の各自衛隊でKV-107として採用された。写真は航空自衛隊の救難ヘリKV-107(Photo:SDASM Archives)

卒業までに3自衛隊が装備しているほとんどの航空機を、マニュアルを読んだだけで飛ばすことになります。
その結果、卒業時には設計者が「これは空を飛ぶ機械です」と言えば、何でも飛ばせるような気になります。

なお、このTPCとは別に、数年に一度ですが、米国のTPS(Test Pilot School)に入学するパイロットもいます。

1年間のTPS課程を修了し、エドワーズ空軍基地のNF-104Aの前で記念写真に収まる20人のテストパイロット。この写真の「16Bクラス」では、パイロットはアメリカ空軍だけでなく、海軍、海兵隊、シンガポール、イギリス、オーストラリアから集められていた

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。