第4回 飛行機を飛ばすだけではない!? 「戦闘機のテストパイロット」の仕事とは?

最も大切な仕事はリスク管理

テストパイロットの試験飛行には常に多くのリスクを含んでいます。
考えられるリスクへの対応を考えるのが担当パイロットの一番大切な仕事です。自分の生死がかかっているのは当然ですが、そのプロジェクトの生死もかかっているのです。

まず、飛行方案の作成からリスク対応は始まります。
飛行方案とは、試験飛行をいかに実施するかについての計画書になります。未知のことをするわけですからリスクはすべてのことに含まれているので、その量は膨大なものになります。飛行方案の1行にも数ヵ所のリスクを含んでいます。

最初に、求められる性能もしくは特性を確認すためにはその試験方法で妥当なのかを検討し、方案を作り始めます。
試験方法は同じ目的であっても、試験する飛行機によって選ぶべき試験方法が異なってきます。また、どの程度の正確性が必要なのかも大切です。

F-2(555号機)の社内飛行試験を終えた際の著者

戦闘機は燃料が少ないため、試験の時間制限もあります。精密にやればやるだけ時間を消費しますので、この辺のバランスも大切です。
リスク管理で一番大切なのは、どんな姿勢で試験が終了するかです。

例えば荷重試験をする場合、5Gをかけた状態で行なう必要があるとします。水平直線飛行から始めて5Gをかけて正確な試験データが取れたとしても、終了姿勢が垂直に上向きでは、終わった瞬間にはスピンに入ってしまってデータを持って帰ることが不可能になってしまいます。

そのため、少なくとも試験終了時には水平飛行に近い状態で終われるように、降下姿勢から始めるのが良いでしょう。もしくは降下から始めると加速してしまうため、データの正確さに問題が出る可能性があるので、むしろ90度バンクで始めた方が諸元のキープは楽になります。

 

このように試験飛行一つでもより安全な方法を考え出すのがテストパイロットの大事な仕事になります。技術者は欲しいデータしか示しません。
上記の例では技術者は多分、「1~5GまでのFs(操縦力)が欲しいんです」と言うだけでしょう。

このように、試験飛行でのリスクの抽出および対応策の実施を行なうことが自分の命を守ります。
実際、航空自衛隊の飛行試験で命を落としたTPC卒業者は1人もいません。それほど試験飛行は安全に実施されているのです。

連載「F-2テストパイロットが教える 戦闘機パイロットの世界2」第4回─終─

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。