第6回 敵機の未来位置に照準を合せてくれる──ジャイロ式照準器1/3

前回、高速で飛行する航空機を撃つには「未来位置」を狙う必要があること、そしてそれができるのは超人的な一部のパイロットだけだったことを説明しました。

そこで、誰にでも簡単に戦闘中に未来位置に照準を合せられるような照準器としてジャイロ式照準器が登場してきます。今回はまず、その基本原理から解説していきます。

「偏差」をどうやって正確に求めるか

今回の記事に入る前に念のため、「偏差とは何か」についてもう一度確認しておきます。

[図1]目の前を直角方向に真っすぐ飛ぶ敵機を射撃する場合のイメージ

真後ろや真正面以外から敵を狙う場合、①の現在位置に照準をつけても絶対に命中しません。なぜなら弾丸が敵機の①の位置に到達するまでに、敵機は②の位置まで前進してしまうからです。このため、「偏差」と呼ばれる未来位置に向けた角度を付けて撃つ必要が出てきます。[図1]

ここで、「この偏差をどうやって正確に求めるのか」という点が問題となってきます。従来の円環式照準器の測距は事実上ほとんど役に立たないのは前回に見ました。最後はどうしてもパイロットの勘になってしまいます。

ただし例外的な解決策を見出していた場合もありました。第二次世界大戦期のドイツのエースパイロット、マルセイユは敵機をコクピットの真正面に捉えて追尾し、その後、機首上げして敵機が隠れて見えなくなった瞬間に撃つといった手法で、正確な偏差を測っていたとされます。[図2]

[図2]マルセイユの見越し射撃イメージ(イラストは敵機の右後方から旋回して近づいていくときのもの)。マルセイユはMe109の場合、コクピットから敵機が見えなくなるくらいまで機首を動かせば、敵機の未来位置へ撃つことができることを分かっていたとされる。つまり勘ではなく、彼なりの方法で目印を決め、“計測”して撃っていたと言える

しかし、この射撃アプローチも実際にやるとかなり大変なため、誰にでもできる芸当ではありません。なので、誰にでも簡単に戦闘中に偏差を求める手法が必要となってくるわけです。

この解決策を考えるには、敵機の「未来位置」の予測には何が必要なのかを最初に考える必要があります。まずは、もっとも単純な形でこの点を検討してみます。

夕撃旅団・著
『アメリカ空軍史から見た F-22への道』 上下巻

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(ゆうげきりょだん)
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著書に『ドイツ電撃戦に学ぶ OODAループ「超」入門』『アメリカ空軍史から見た F-22への道』上下巻(共にパンダ・パブリッシング)がある。