第5回 パイロットの腕の見せ所? 無用の長物?──戦闘機のバルカン砲

今は誘導ミサイル全盛の時代だが、合理主義者のアメリカ空軍がF-35Aに機関砲を積んだように、バルカン(機関)砲は戦闘機パイロットの“最後のお守り”でもあるという。今回は戦闘機から機関砲を撃つと、パイロットからはどう見え、どう感じるかなどを語っていただきたいと思います。

加えて航空自衛隊では機関砲のどのような訓練を行なっているかや、どういう場合は当てることが難しくなるかなどを話してもらいたい。

撃っている感覚はほとんどない

今回はバルカン砲です。20ミリのガン(機関砲)です。結論から言うと、戦闘機には当たりません(笑)。

バルカン砲の細部はググっていただきたいと思います。今回は実際の使用についてお話ししていこうと思います。

カバー部分を外した状態の航空自衛隊F-15のM61バルカン(ローマ神話に登場する火神の意)。M61はゼネラル・エレクトリック(GE)社が開発した20ミリガトリング砲で、1959年から多くの航空機や艦艇、地上部隊の対空武装として用いられている(Photo:Komatta)

実際の射撃の感覚は、皆様が思っているものとは異なると思います。実際に軽機関銃でも撃った経験のある方ならもう少しイメージは沸くかもしれませんが、やはりそれとも大きく違うと思います。引き金を引くと、「ブーン」という音と振動が来ます。どちらかといえば高速回転運動をしている音で、機関銃を撃つ感覚ではありません。静かです。

なお、反動は厳密に言えば多少ありますが、ほとんどないと言っていいと思います。少なくとも操縦や照準上で問題となるほどの飛行機特性を変化するほどの反動はないです。

毎分6,000発を撃ちますので、毎秒100発が出てしまいます。射撃は通常0.5~1.0秒程度の引き金動作になっていて、1回の射撃で50~100発を発射します。6本の銃身が回転して撃つ仕組みで、定められた回転数になるまでは弾が出ませんので、最初はロスが少々あります。

飛んでいく弾自体は見えませんが、黒い煙が弾の後についていくので少しは見えて撃っている感じはあります。曳光弾(えいこうだん)を入れている場合はよく見えますが、曳光弾と実弾では弾道が違いますのであまり参考にはなりません。ただ、撃っている満足感はかなりあります(笑)。

ちなみに曳光弾は数十発に1発程度入れますが、アラートについている戦闘機には相手に射撃がよく見えるように曳光弾が多めに搭載されているようです。私はスクランブルで上がっても実際に撃ったことがないので効果は分かりません(笑)。

なお、自衛隊の歴史では一人だけ、領空侵犯してきた不明機に対して(不明機の)横で前方に警告射撃をした記録1が残っています。

機関砲の種類はM-61シリーズで、F-104やF-4EJ、F-15と我が国の歴代戦闘機で使われているものになります。なお、F-104はでは電動、F-4とF-15は油圧駆動になります。ただしF-4はF-4E以降の機体に搭載されたため、後付けの装置になります。

F-15Jの場合、機関砲は右主翼の付け根あたりに備えられている(黄色矢印)。写真は小松基地にて撮影されたF-15J(Photo:Hunini)

脚注

  1. 対ソ連軍領空侵犯機警告射撃事件……1987年(昭和62)12月9日、沖縄本島上空などに領空侵犯したソ連のTu-16偵察機に対し、那覇基地 第302飛行隊のF-4EJが自衛隊史上初めて実弾警告射撃を行なった。警告射撃の後、Tu-16は一度は領空を離脱したが、再度侵入したため再度射撃が行なわれた

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。