

銃はそもそも当てるのが難しい
走りながら銃を撃ち、しかも目標に命中させる。実はこれはかなり困難な行為だ。
現代の戦車なら、野外のデコボコな不整地を走りながら、走行中の敵戦車を射撃して命中させることができる。
戦車の場合、敵戦車が動いていても、一度照準してロックオンすれば、自車がいかなる姿勢になろうが、向きが変わろうが、砲身だけは敵戦車を追尾し続ける。サスペンションが車体の揺れを最小限にして、常に砲身が敵戦車を向くように、砲安定装置が作動するのだ。
さらに、弾道計算コンピュータが風向・風速・敵戦車までの距離・自車の速度などを計算して、いつでも砲手が戦車砲を撃てば当たるように調整し続ける。

しかし、人間の場合はかなり難しい。
ドットサイトなどの照準器を銃に装着すれば、最初から銃に付いているアイアンサイトよりは、咄嗟に狙いをつけやすくなる。だが、走ると身体が上下し、照準の軸線もずれてしまって、正しい狙いを維持するのは大変だ。
銃を照準するのは、心臓の鼓動だけでも体が揺れて命中率に影響すると言われる繊細な作業である。走りながらの射撃は素人の想像以上に困難で、並みの人間ではまず当たらない。
不可能を可能にする特殊部隊の猛訓練
冷戦後の軍隊では、一般歩兵でも歩行射撃をするのが通例だ。これでも命中精度は立ち止まって撃つときよりもガタ落ちになる(筆者のような「下手の横好き」射手では、ほとんど標的に当たらない)のだが、自分が動いていることで被弾の確率を下げることができるからだ。
それでも特殊部隊は、10メートル程度の距離であれば、走りながら撃って敵の頭部に命中させるというから、まさに神業だ。このテクニックは、要人暗殺や捕虜・人質救出作戦などのように、不意急襲的な効果を発揮したい局面で用いられることが多い。
一般歩兵と、それに相当する陸自の普通科隊員が訓練で撃つ実弾は、年に数百発かせいぜい千発程度である。特殊部隊ではそのタマ数をたった1日で撃つ。年間の実弾消費数は数万発から数十万発と言われるが、そのくらい猛訓練をすれば、走りながら撃っても正確に当たるだろう。
本記事は2015年に発行された書籍『40文字でわかる 銃の常識・非常識』(あかぎひろゆき・著)からの抜粋になります。
走行中に撃っても、凡人ではまず当たらない