第1回 弾道をどのように集中させるか──照準の基礎知識

もう一つ考慮すべき要素──弾道の落下

ただし、弾道をコクピット前に集中させるには、もう一点注意が必要です。高速で飛ぶ銃弾でも、200メートル以上を飛行すると重力によってある程度弾道が落下します。つまり直線では飛ばないのです。

その落下量を見積もっておかないと、きちんとコクピットの正面に弾道は集中しません。この落下量について先のマニュアルを再度参照すると以下の[図6]ようになります。

[図6]『Aircraft FIRE CONTROL 1944年版』の機体速度ごとの銃弾の落下量を説明しているページ

速度によって落下量は変わりますから、まずはその弾速を知らなくてはなりません。まず普通に正面に向けて撃つ場合は(機体の速度も合わさるために)加速されますから、

弾の初速 + 飛行速度 = 実際の弾速

逆に[図6]の真ん中の図のように、爆撃機や雷撃機などの銃座から後方に向けて撃つ場合は減速され、

弾の初速 - 飛行速度 = 実際の弾速
となります。

[図6]では飛行速度を300フィート/秒(約91.5メートル/秒=時速約342キロ)、弾丸の初速を2,600フィート/秒(約792.5メートル/秒=時速約2850キロ)とし、進行方向に撃つ場合の落下量は500ヤード(約452メートル)先で63インチ(約1.6メートル)、逆に後方に撃つ場合は103インチ(約2.6メートル)それぞれ落下する、としています。

つまり452メートル先だと、最低でも1.6メートル以上落下してしまいます。

一番下の図は、地上で固定した銃の落下差を示しており、これは83インチ(約2.1メートル)と、両者の中間量になることが示されています。

 

なお、弾丸の落下量は空気抵抗やライフリングによって回転している弾が生み出す揚力などによって変化するので、単純に計算で求めるのは困難です。正確なデータを得るには実射試験でキチンと確認する必要があります。

ついでに言うなら飛行高度によっても異なり、空気の薄い高高度では高速になり、より遠くまで真っすぐ飛びます。

先に見た機銃の弾道調整ではコクピットの230メートル前方で弾が集中するようになっていましたが、それは「この距離までならそれほど大きな落下は起きない」という理由が大きいためでした。

もっとも初速が792.5メートル/秒なら、230メートル先では少なくとも約40センチ以上落下してしまうのですが、ここらあたりが妥協点ということなのだと思われます。

(落下距離=1/2×9.8(重力加速度)×時間×時間、すなわち重力加速度を時間で積分した式で求められる。ただしこれは空気抵抗を考慮しない場合なので、実際はもっと落下する)。

以上のような工夫で、照準器の先で弾道が集中するようになりました。よって、後はその集中点に照準を合わせて撃てば命中するはずですから、戦闘機の照準器はその位置を示すようにすればいいことになります。

 

ただし、ここで問題がもう一つ出てきます。弾道が集中するのは機体前方200~300メートルの位置であり、この位置に敵機がいないと弾着は集中しません。その手前でもバラバラに着弾して威力が落ちますし、奥だと弾道が落ちてしまってそもそも当たりません。

つまり、敵を正確に200~300メートルの距離に捉える必要があり、それはすなわち、目の前に見えている敵までの距離を目視で測らねばならないことを意味します。

次回は、このあたりの問題を見ていきます。

連載「いかにFCSは生まれたか」第1回─終─

夕撃旅団・著
『アメリカ空軍史から見た F-22への道』 上下巻

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著書に『ドイツ電撃戦に学ぶ OODAループ「超」入門』『アメリカ空軍史から見た F-22への道』上下巻(共にパンダ・パブリッシング)がある。