アルディス式筒型照準器の場合──実用性はほぼ無し
ちなみに第3回で紹介したアルディス式筒型照準器の場合、狭い筒内にそんな大型の円環を入れることはできないので、よほど相手が低速でない限り、速度の計測はほとんどできませんでした。[図4]が筒を覗き込んだときのイメージです。
一応、先ほどのように直角で交わる条件で、時速100マイル(時速約161キロ)で飛行中の敵機なら、外側円環の上に(敵機を)捉えれば未来位置の予想はできる、とされていました([図5]で一番外側の太い線は筒を示すので、「外側円環」とはその中の円環。中心の小さい円環は照準点)。
しかし、そんな低速で飛んでいる機体がどこの世界にあるの? という話で、実用性はなかったでしょう。これも筒型照準器の欠点の一つでした。
光学照準器の場合──基本部分は変わらず
このあたりの原理は、第4回の反射ガラスに光像を投射する光学式照準でも基本的には同じでした。
ただしより細かく目盛りを入れられたため、もう少し細かい計測が可能でしたが、それでもあまり現実的とは言いかねます。
例に挙げたMk.8光学式照準器の目盛りは[図6]のようになっていました。
縦方向に入った細かい目盛りは、機体を傾けて旋回中に、照準内に捉えた敵機との偏差を計算するためのものです。ミリラジアン、いわゆるミル単位で刻まれており、これで照準点にいる敵機のおおよその未来位置が計算できたはず……なのですが、激しい空戦中にどこまで使えたのかは疑問のような気もします。
なお、これはアメリカ陸軍航空軍用なので、速度はマイル/時(mph)に対応しています。海軍の場合については、先の『AIRCRAFT FIRE CONTROL 1944年版』で比較してみます。
[図7]の内側の円環が(敵機の速度が)時速50ノット(時速約92.6キロ)の場合、外側が時速100ノット(時速約185キロ)の場合に対応しています。
円環ではなく、横と斜めの直線でも示されており、直線が示す一番内側の位置が25ノット(時速約46.3キロ)、同じく一番外側の位置が150ノット(時速約277.8キロ)の敵速度に対応しています。
光学照準器まではこのような工夫で未来位置の予測を行なっていたわけですが、そもそも相手の機体速度を正確に知る手段がありません(自機との速度差で一定の推測はできたが)。しかも、時速数百キロで飛んでゆく機体なんて一瞬で目の前を通過してしまうので、まともに確認している時間もありませんでした。
このあたりは考えれば考えるほど、「だったら、どうすればいいの??」という世界になっていきます。これを“勘”で乗り切ってしまうのが天性のエースパイロットなのですが、そんな人間は何人もいませんから、現実的な解決策とはなりません。
このため、この問題を解決してくれる装置として開発されたのが次の世代の照準器、ジャイロ式照準器でした。次回はこれを見ていきます。といった感じで今回はここまで。
連載「いかにFCSは生まれたか」第5回─終─
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