第8回 実際の使用方法と残された問題点──ジャイロ式照準器3/3

ジャイロ式では距離を正確に掴まないと当たらない

ただし、これでジャイロ式照準器の課題がすべて解決されたわけではありませんでした。

「機銃の射線上に敵機を捉えて撃つ単純な従来の照準器とは異なり、一点で捕足するジャイロ式照準器では距離もまた正確に捉える必要があったからです。

これはジャイロ式照準器が示すのは敵機が特定の距離、例えば100メートル斜め前方にいる場合の未来位置だからで、その距離に敵がいない場合は前方か後方に弾道は逸れてしまい、弾は永遠に敵機に当たりません。すなわち、従来より正確な測距が要求されることになったのです。[図5]

[図5]測距を間違えた際の従来の照準器とジャイロ式照準器のイメージ。それまでの照準器の場合(左側)は射線上に敵機を捉えて撃つだけなので、測距を間違えていても敵機に当たる可能性はあった。しかしジャイロ式照準器の場合(右側)、敵機を一点で捕捉するため、正確に距離を合わせないと当てられなかった



可変式ダイヤモンズ円環による測距

このためジャイロ式照準器のでは簡単に円環の大きさの調整できるようにし、距離に合わせて最適化できました。

通常は理想的な距離、つまり弾道集中点(事実上の射程)までの距離に対応する大きさで投影されていますが、これを調整して敵機までの距離を簡単かつ正確に知ることができるのです。
(編集部注:従来の照準器では飛行中、まして旋回中に変更することは無理だった)

簡単な図にすると[図6]のような感じになります。

[図6]距離ごとのダイヤモンズ円環の見え方。敵機の翼幅にダイヤモンズ円環の大きさを合わせることで距離を測ることができた(偏差を調節することができた)

K-14ジャイロ式照準器の場合、最大の円環は600フィート(約183メートル)、最小の円環は2,400フィート(731.5メートル)の距離に対応しています(遠くに居る方が小さく見えるから)。

当然、2,400フィートより遠い目標に弾は届きませんから、これは敵機までの距離を確認するためのものでした。大型の爆撃機などはかなり接近したつもりでもまだまだ距離があるのが普通なので、弾の無駄撃ちを防ぐ意味もあったと思われます。

それに対して最小距離が600フィートまでなのは、この距離に近づいたなら偏差はほとんど無視できる、すなわち普通に照準点に敵機を捉えて撃てば当たったからで、これ以下の距離の計測(測距)は無意味だからです。

円環の大きさの調整は、スロットルレバーのグリップ部を前後に回転させることで操作できます(第7回の「②測距用のレティクルの大きさを調整するダイヤル」)。

[図7]スロットルに付いていたグリップを回転させることで、円環の大きさを調整することができた

また一部の機体、とくに海軍機などではラダー操作用の左右のペダルの先端部に小さな踏み込み板が付いていて、これを押し下げることで操作したようです。いずれにせよ、高いGが掛かる状態でも操縦に必要な装置から手を放さずに操作できるようになっていました。

夕撃旅団・著
『アメリカ空軍史から見た F-22への道』 上下巻

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1件のコメント

1ページ目の「①最初に敵の位置をジャイロスコープによりマークする。」とありますが、このマークするためにはスイッチを押す又はトリガーを引くような手順を行うのでしょうか。

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(ゆうげきりょだん)
管理人アナーキャが主催するウェブサイト。興味が向いた事柄を可能な限り徹底的に調べ上げて掲載している。
著書に『ドイツ電撃戦に学ぶ OODAループ「超」入門』『アメリカ空軍史から見た F-22への道』上下巻(共にパンダ・パブリッシング)がある。