第9回 武装と油圧で動く装置には要注意!──③インテリアチェック(内部点検)

スイッチ類を確認する「インテリアチェック」

さて、ではエンジンスタート! と行きたいところですが、まだ点検があります。次にやるのはインテリアチェックと呼ばれる内部点検です。

皆様がご想像のように、コックピットには無数のスイッチなどがあります。実際に数えたことはありませんが、100~200個はあるでしょう。これらのスイッチがあるべき位置にあることを確認します。その多くはOFF位置ですが、ONであるべきものもありますので、すべてを覚えておかなくてはいけません。

F-16のコクピットとマスターアーモスイッチの位置。インテリアチェック(内部点検)も外部点検と同じく時計回りに行なう(Image:U. S. Air Force)

これらすべてを、コックピット左後ろから左前、正面、右前、右後ろコンソール(操作卓)まで時計回りでチェックします。実際はパイロットが操縦席につく前に整備員さんがチェックしているので、ほぼ間違ったスイッチ位置になっていることはありませんが、この飛行機を見つめ直すためには大事な手順になります。特に試作機や試験機は一機一機違いますので、その違いを確認することにも役立ちます。

民間のパイロットは通常二人勤務ですので、一人が手順を読み上げてもう一人が確認する手順になっています。しかし戦闘機は一人乗りですので、すべてを自分一人でしなくてはいけません。

戦闘機乗りはそんなに賢くないのですべてを暗記することはできませんが、スイッチなどを見ながら点検するので、覚えることはそれほど苦行ではありません。また毎日同じことを繰り返してやりますので、そのうち自然にお経のように口ずさめるようになります。私の場合、40年前に乗っていたT-33の内部点検やエンジンスタート手順は今でも自然に出てきます(笑)。


油圧で動く装置には要注意!

また今の戦闘機(飛行機)には多くの安全装置が付いていますので、99%のスイッチはどこにあっても、エンジンスタートで壊れるようなことはないでしょう。

ただし油圧関係で動く装置は、エンジンが回り始めると同時に、ダイレクトに油圧がかかって動きますので注意が必要です。

例えばスピードブレーキなどは小さなスイッチなので、間違いが起こりやすく、近くに整備員でもいれば大事故になってしまいます(通常スピードブレーキは外部点検で中に油漏れがないかを確認するため、無理やり開いた状態1になっています。エンジンがかかれば、すぐに閉まり始めます)。もっとも整備員の方々もその辺のことはよく知っているので、エンジンスタートするときは飛行機には近づかないと思います。

スピードブレーキを広げて着陸しようとしている米軍のF-16。スピードブレーキは、F-15は機体上部にあるが、F-16やF-2はエンジンノズル周辺に上下4つ、F-4は主翼下の中央に一つずつあって、人間は簡単に挟まってしまう(Image:DoD動画からのスクリーンショット)

まあ、安全装置についてはしいて言えば、脚ハンドルがダウン位置にあるとか、アーマメント関係のスイッチがすべてOFFになっているとか、酸素供給装置がちゃんと動いているとか程度は確認しましょう。

 

余談ですが、F-15ではインテリアチェックが終わった後にダメ押しの「VERIFY」(確認・点検)という手順が定められています。これは本当にそこの位置にスイッチやレバーがないと、やばいことになる項目が15項目ほどリストアップされています。

例えば緊急投下装置や緊急空中給油スイッチなど、緊急用装置がONになっていると電源投入と同時に作動してしまう危険があるので、これだけは再確認しなさいということです。どんなに忙しくても、これだけは再度確認したほうが良いと思います。自分でダブルチェックですね!

脚注

  1. 無理やり開いた状態……油にじみなどの点検のため、機体が地上に置いてあるときは開いた状態で、ガードをはめてあることが多い。

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

1件のコメント

とても勉強になり、楽しいお話をありがとうございます。(M様)
少し前に、嘉手納のF-15Cを遠くから撮影したYoutube動画を見たのですが、パイロットがヘルメットを被らず(キャノピーは閉まってます)、ひざの上にヘルメットを置いてタキシングを始めたんです。
全機ではなく2機くらいのパイロットがやってました。
あれは何だったんだろうと・・ 撮影した人も、あんなの初めて見たとおっしゃってました。

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。