大きなカナード翼はステルス性を下げているか?
J-20に対する批判的な意見に「ステルス機を謳っているにも関わらず、カナードがある」というものがある。では、果たしてカナードがステルス性能に悪影響を及ぼすというのは本当なのだろうか。
2010年に発表された西北工業大学の研究者による論文において、通常の翼配置(主翼+後方の尾翼)とカナード配置の対レーダー・ステルス性が比較されている。
同論文は、カナードを持つ航空機は持たない航空機よりも前方象限からのステルス性能は若干劣るとするものの、前縁後退角を大きくし、翼端の頂点(角となる部分)を整形処理して、かつ構造材にステルス対応の素材を使用すれば、容易に克服できるとしている。
なお、カナードの前縁の角度は反射角のルールに合わせ、主翼と後退角を併せているのは先述のとおりだが、J-20は検証機から原型機への過程において、当初、角張っていたカナードの翼端形状を、上記の論文に述べられたように角をとった形状へと修正している(この点、垂直尾翼の角も同様の処理がなされている)。
また、原型機の次のテスト部隊に引き渡された段階の機体(黄色のプライマー塗装のもの)は、カナード翼を含む各翼の前後縁などがのこぎり状の分割線に変更されている。これは構造材の継ぎ目を滑らかにするための対策であるとともに、色の違いはステルス性の高い複合材などが使用されたためだ。
Introducing the J-20B: #China Reportedly Puts Advanced New Stealth Fighter Variant Into Mass Production
A number of Chinese and Hong Kong media outlets have reported that a new variant of the country’s 1st 5th gen fighter jet, Chengdu J-20, has entered mass production. @200_zoka pic.twitter.com/qIQtS7wfnq
— Sukhoi Su-57 Felon 🇷🇺🇮🇳 (@I30mki) July 13, 2020
(Twitterより。右上のロゴをクリックするとTwitterへ移動)
それでも「J-20のカナードは可動式であり、可動したカナード翼面がRCSを増やすため、ステルス対策上不利」という意見も存在するようだが、作戦中に高速で飛行するJ-20のカナードの動作範囲は小さなものであり(おそらく動作角は5度未満)、ステルス対策上で悪影響を及ぼすものではないだろう。
ステルスの話はもう少し続いて、次回はステルス材料について検証していきたいと思う。
■参考文献
・「現代艦船」誌 2018年10月号、2019年6月号、2020年07-08合併号(中国船舶重工業集団公司)
・「兵工科技」誌 2020年13号(陝西省科学技術協会)
・『一种小展弦比高升力飞机的气动布局研究』(宋文骢 論文、2001年8月)
・「表面技術」誌 2010年12月号(中国兵器装備集団有限公司)
・「现代技术陶瓷」誌 2019年第1-2期(山东工业陶瓷研究设计院有限公司)
・中華人民共和国国家知識産権局 特許申請第106163247号(2016年11月23日)
・中国研制成功SH6隐身膜 水平领先世界
・A Preliminary Assessment of Specular Radar Cross Section Performance in the Chengdu J-20 Prototype
・中国新蒙皮技术或实用 比F22先进
連載「元自衛隊情報専門官から見た中国戦闘機」第6回─終─
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