第6回 テストパイロットの1日──試験飛行の見積もりが3倍になる理由が分かる??
連載「戦闘機パイロットの世界2」

「試験飛行」とは、どのように行なわれるのか。

航空自衛隊と某飛行機製造会社で約30年テストパイロットを務めた筆者に、試験飛行の1日の段取りを紹介してもらう。

【実施可否の判断】すべての場所で天気の良くないと飛べない

自衛隊の航空総隊(実任務を行なっている部隊)パイロットとテストパイロットでは、その1日が異なります。私は航空自衛隊で約10年、某飛行機製造企業(以下、会社)で20年ほどテストパイロットとして飛びましたが、仕事内容が異なりますのでその1日も違ってきます。

まず、テストパイロットの朝は早いです。理由は一番使いやすい時間帯は航空総隊に割り与えられていて、試験飛行はその空き時間を使って行なわれるので、朝はめちゃくちゃ早くて、昼はちょうど昼食時期、夕方はかなり遅くまで飛ぶことになります。

朝は、いずれも全員参加のモーニングミーティングから始まります。ここで一番大事なのは当日の天気です。試験飛行は昼間VMC1(有視界気象状態)に限られますので、離陸する飛行場はもちろん、空域への飛行経路、当然試験エリアも雲のない状態でなければなりません。それに加えて、緊急時に着陸するであろう飛行場も、飛行中にVMCが維持されることが必要です。

ですから、毎日飛べるわけではないので、なかなか試験飛行は計画通りには進めません。この点は、曇りや小雨程度であればまったく関係なく訓練が実施され、対領空侵犯措置ではどんな天候でも離陸して任務を遂行する航空総隊とは大きく異なります。

写真右の機体は試験飛行で右旋回を行なうX-2(先進技術実証機)で、左側はチェイス機役のF-2でX-2に合わせるように右旋回を行なっている(写真左)(Photo:YouTube「防衛省 防衛装備庁公式チャンネル」より)[画像クリックで動画へ移動できます]

ちなみに、試験飛行ではなぜここまで全経路での有視界状態を必須としているかというと、計器に頼らないで飛行可能である必要があるためです。言い換えれば、計器類がまったくなくても飛行できる気象条件で飛ぶということです。

飛行機は飛行試験が終了しなければ、何も保証されません。高度計も航法計器も何もかもが未保証状態では、雲の中を計器を信じて飛んでも、命の保証はないことになるのです。

脚注

  1. VMC……パイロットが目視により飛行できる気象状態のこと。Visual Meteorological Condition。一方、パイロットが障害物を避けながら飛行する方式をVFR(有視界飛行方式:Visual Fight Rule)、管制官の指示に常時従って飛行する方式をIFR(計器飛行方式:Instrument Flight Rule)という

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。