第6回 テストパイロットの1日──試験飛行の見積もりが3倍になる理由が分かる??

プロジェクトを左右しかねないパイロットの体調

試験飛行はこのように、自分だけの問題ではなく、多くの関係者の仕事も左右します。そのため試行結果には、最大限の自信が必要です。また、諸元設定がちょっとでも違ってしまった場合には素直にレポートしないと、プロジェクトが間違った方向に進んで、これまた無駄な時間と費用を強いることになります。

テストパイロットにとって一番大事なのは、「嘘を言わないこと」、また「分からないことは理解するまで勉強すること」、そしてベタなことですが「健康管理」が大切です。

普通の社会人も健康管理は大切ですが、テストパイロットにとっての健康管理は、生活のすべてがフライトにつながっていることを意味します。例えば、テストパイロットは基本、深酒はしません(私は金曜日以外飲みません)。もし事故が起こって私の体の一部分からアルコールが検出されたら、事故原因は100%テストパイロットとなってしまいます。

某誌の取材を受けた際の筆者。左肩のワッペンはFS-Xでの飛行時間20時間を記念したもの。これ以降、機体名がXF-2へと変更されたため、日本では(FS-Xで20時間飛んでいる)3人だけのワッペンとなった

テストパイロットは辛いよ

それと、飛行前1時間を切ったら何も口にしません。もし飛行中に食べたものが原因で腹痛でも起きたら取り返しがつきませんので、私は飛行前1時間以上前に食事をすることにしていました。一般の社員は「パイロットはいいよね、好きなときに食事ができて」と言っていましたが、そうではなくて命を守るために必要なのです、

さらに一番悪いのが、空腹で飛ぶことです。糖分不足で思考と判断が遅くなり、いざというときに時間に抜かれてしまいます。また海上に降りてしまった場合、空腹では体温維持をすることができなくなり、永遠に寝むることになってしまいます。

ですから、テストパイロットの健康管理とは一般的な健康管理とは違って、飛ぶためには、いつ何をした方がよりよいかを常に考えながら生活していくこととなるわけです。

連載「戦闘機パイロットの世界2」第6回─終─

渡邉吉之・著
『戦闘機パイロットの世界
“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論

飛行時の体感から、計器・HUDの見方、エンジンスタートから着陸までの手順、空戦やマニューバー、失速や緊急時の対応方法まで!

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渡邉吉之元航空自衛隊パイロット、テストパイロット
(わたなべ・よしゆき)
1951年東京都生まれ。防衛大学校を経て航空自衛隊へ入隊。第8航空団(築城基地)でF-4EJ、飛行開発実験団(岐阜基地)でF-15J戦闘機などのテストパイロットとして勤務。操縦経験機種は各種戦闘機のほか、グライダー、軽飛行機、練習機、大型輸送機、ヘリコプターなど30機種におよぶ。
1990年、F-2支援戦闘機の開発のために三菱重工業に移籍。新製機や修理機のテストフライトを担当し、設計の改善等をアドバイスする。1995年、F-2の初フライトを成功させる。その後、同社の戦闘機の生産拠点である小牧南工場の工場長などを務める。
著書に『戦闘機パイロットの世界』(パンダ・パブリッシング)、共著に『零戦神話の虚像と真実』(宝島社)がある。