スタンドオフミサイルを自衛隊は運用できるか──長射程ミサイルの難しさとは?

12式地対艦誘導弾とは何か

②の島嶼防衛用地対艦誘導弾とは、一つには「12式地対艦誘導弾の長射程型」に相当すると思われる。本題に入る前に、今回開発するスタンドオフミサイルの基になる12式地対艦誘導弾とはいかなるものかについて述べておく。

発射筒から発射を行なう12式地対艦誘導弾。2012年から陸上自衛隊に配備されて地対艦誘導弾(ミサイル)システムで、発射を行なう車両に加えて、レーダー装置、指揮統制装置などの複数の車両(装置)から成る(Photo:防衛省)

冷戦の最中である昭和40年代に、防衛庁はソ連軍の侵攻してきた際には上陸艦隊を洋上で撃破することを目指し、F-1支援戦闘機から発射するASM(air-to-ship missile:空対艦ミサイル)である80式空対艦誘導弾(ASM-1)を開発した。ASM-1は先端にレーダを搭載したアクティブレーダホーミング誘導で、固体燃料ロケットで推進する推定射程50キロのミサイルであった。

一方、ソ連軍の侵攻に対する防衛構想を、それまでの内陸持久戦から水際撃破戦に切り替えようとしていた陸上自衛隊はASM-1に注目し、推進装置をロケットからジェットエンジンに切り替えて長射程化した88式地対艦誘導弾(SSM-1)を開発し、4個中隊編成の連隊を6個編成した。

88式地対艦誘導弾のミサイル発射機搭載車。1988年から陸上自衛隊に配備された地対艦ミサイルシステムで、ミサイルは固定燃料ロケットによって発射されたのち、ターボジェットエンジンによって飛翔する(Photo:陸上自衛隊)

SSM-1は固体燃料ロケットのブースターで発射され、加速してからジエットエンジンを始動する方式で、射程は150~200キロと推定されている。もっとも、目標の発見や発射の指定などを陸上レーダで行なうため、水平線の先となる約50キロより遠方の目標とは交戦できず、実際の射程は海岸から50キロ程度に留まった。

なお、何のために150~200キロの射程が求められたかというと、発射機を敵から攻撃されやすい海岸近くに置かず、海岸より100~150キロ内陸に置くためである。その後SSM-1は誘導装置や発射機などに改良が加えられ、12式地対艦誘導弾として2012年度以降に調達されている。

また後に、海上自衛隊もSSM-1を90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)として装備している。加えて航空自衛隊はレーダシーカを赤外線シーカに変えたジェット推進の93式空対艦誘導弾(ASM-2)を装備し、さらにエンジンをラムジェット1に変えてマッハ3+で飛翔するASM-3Aの量産も始まっている。

対艦誘導弾の系譜(Diagram:Los688)

脚注

  1. ラムジェット……ジェットエンジンの一種で、超音速飛行用に開発されたもの(マッハ3〜5で最も効率よく作動する)。コンプレッサーやタービンが必要ないため、構造が簡単で軽量化が容易とされる

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ABOUT US
藤岡智和日本安全保障戦略研究所上席研究員、防空システムアナリスト
(ふじおか・ともかず)
1944年生まれ、東京都出身。防衛大学校 13期。
対空ミサイルHAWK部隊の整備幹部を経て、陸上自衛隊高射学校でHAWKシステムの整備教官として改良HAWKの導入のため米陸軍防空学校に留学。
防衛省技術研究本部第1研究所レーダ研究室(当時)研究員として、電子戦などを担当。
その後高射学校研究員として、03式中距離SAMの構想段階から要求性能書作成までを担当。高射学校研究員として9年間勤務後陸上自衛隊中央システム管理運用隊長として、陸上自衛隊指揮システムの導入を担当。
1999年 退官(1等陸佐)。