スタンドオフミサイルを自衛隊は運用できるか──長射程ミサイルの難しさとは?

射程の延伸は「技術的には可能」

話が少し寄り道したが、では12式などの地対艦誘導弾の射程をさらに伸ばすことは可能なのであろうか。

これについては、まず2016年8月の読売新聞で、射程300キロを目指すと報じられた。この記事は当時、英国の防衛専門誌Jane Defense Weeklyでも紹介されている。また2017年10月の米軍紙Stars and Stripesも「2018年度から開発する対艦ミサイルに対地攻撃能力を持たせる」と報じ、射程を300キロとしていた。

その後2019年3月には国内各紙が、開発を完了した射程200キロのASM-3を400キロ以上に伸ばすと報じ、さらに射程500キロのJSMや900キロ以上のJASSM-ER導入が取り沙汰されるようになった。

レーダーをなるべく避けるために低い高度で飛行しつつ、囮を避けるために進路を変えるテストを行なったJSMスタンドオフミサイル(YouTube「Raytheon Technologies」チャンネルより)

 

12式地対艦誘導弾はジェットエンジンで飛翔するため、燃料が続けば何処までも飛べる。また燃料の量が一定なら、燃費の良いエンジンにすれば長射程化ができる。

米空軍ではJASSMのエンジンをターボジェットから燃料効率の良いターボファンに替えたことにより、搭載燃料を70キログラム増やしただけで射程を2倍の500マイル(約805キロ)にしている。

88式地対艦誘導弾が開発された1980年代頃に比べて、今日では電子装置の小型が進んでいる。その分燃料搭載量が増やせる上、エンジンの換装によって飛距離は大幅に伸ばせる。ターボジェットエンジンを現在の遠心式1から軸流式2に替えるだけで飛距離は大きく伸びるし、高価にはなってしまうが、さらにターボファンエンジンに替えれば射程は画期的に伸びる。

さらに米国のトマホークやJASSMでは、発射後に翼を展張して揚力を得られるようにし、燃料の消費を抑えている。つまり、技術的には長射程型の地対艦誘導弾を実現することは可能だろう。

ロッキード・マーティン社が開発した長距離空対地ミサイルAGM-158 JASSM(Joint Air-to-Surface Standoff Missile:統合空対地スタンドオフミサイル)。空中へ投下された後に翼が展開して飛翔する。標準型のJASSMのほかに、射程延伸型JASSM-ER、対艦型LRASM、さらなる射程延伸型JASSM-XRも開発されている(Photo:Lockheed Martin)

脚注

  1. 遠心式……遠心力によって、吸い込んだ空気をファンの外周側に放射状に流す方式。構造は簡単だが、大量には流せない
  2. 軸流式……ファンの1段1段に20〜50枚の羽根を備えており、プロペラのように回転軸に沿って空気を流す方式

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ABOUT US
藤岡智和日本安全保障戦略研究所上席研究員、防空システムアナリスト
(ふじおか・ともかず)
1944年生まれ、東京都出身。防衛大学校 13期。
対空ミサイルHAWK部隊の整備幹部を経て、陸上自衛隊高射学校でHAWKシステムの整備教官として改良HAWKの導入のため米陸軍防空学校に留学。
防衛省技術研究本部第1研究所レーダ研究室(当時)研究員として、電子戦などを担当。
その後高射学校研究員として、03式中距離SAMの構想段階から要求性能書作成までを担当。高射学校研究員として9年間勤務後陸上自衛隊中央システム管理運用隊長として、陸上自衛隊指揮システムの導入を担当。
1999年 退官(1等陸佐)。